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「イラン:ふしぎの国」
<第5回>「イスラム式ナンパ術」−男女が別に生きる社会の交際術
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イスラムは男女別社会である。
幼稚園から男女別学。バスの入り口まで、男女で分かれている。男は前から乗って前の座席に座り、女は後ろから乗って後部に座る。混じり合うことはない。以前は(いまでも地方によっては)住むところも別。ヤズドの路地を歩いたとき、ドアのノブが2つついている家が何軒もあった。大きなノブは男性客用。小さなノブが女性客用。音のちがいを聞き分けて、男性客には男性が、女性客には女性が応対するそうだ。
誰もが疑問に思うだろう。
「それなら、いったいどうやって彼や彼女を見つけるのか?」
現地ガイドのアセミネさんいわく「通学・通勤途中です」
「あ、あの子かわいいな、と思ったら声をかけるんです」
「なんて?」
「お茶でも飲みませんか? かな」
「月並みだなあ。で、お茶、どこで飲むんですか?」
「チャイハネ(イランの喫茶店。水タバコが飲める)で」
「結婚していない男女が2人きりでお茶なんか飲んでもいいの?」
「……テヘランだったら大丈夫ですし、結婚するつもりだといえばいいんです」
ならば、結婚するつもりはないけれど、つきあう場合はどうするのだろう?
ヤズドではモスクの影に隠れて、逢い引き(古くさい言い方だが、その言い回しがぴったり)をしている男女がいた。
シーラーズで夜公園を散歩しているカップルが何組もいた。ベンチでそっと抱き合っているカップルも! 夜陰にまぎれて、というところか。
「そう、たいへんですよ。ナンパした以上は、結婚の覚悟を決めなきゃ。結婚を前提にしない男女交際はありえないから。これぞと思った彼女に、交際を申し込まなきゃいけません」
「つき合ったら、ぜったいに結婚しなくちゃいけないの?」
「まあ、結婚を申し込むことは最低でもしなくちゃいけないでしょうね」
「げっ。つき合ってみて、こりゃどーにもこーにもコイツとは合わないと思ったらどうすればいいの?」
「腹をくくることです」
「なんの?」
「女性側の父親やお兄さんから厳しくとっちめられることをね」
「ひょえー、恐ろしい。決死の覚悟でナンパしなくちゃいけないのね」
「それだけの覚悟があるから、成功率は高い」
「なるほど」
「でも、最近のテヘランでははるかに自由ですけれどね。クルマを持っていれば、たくさんの女の子とつき合えますよ」
「そうか、デート場所が提供できればつきあいの幅が広がるんだ」
「そう。あと、一人暮らしとかね。とにかく人目に立たずにこっそりデートできるんだったら、結婚を前提にせずにいろんな人とつき合ってもOKなんですよ」
そういうアセミネさんは、奥さんを仕事先でゲットしたそう。おみやげものショップで働いている奥さん(すごい美人)を見初めて、ガイドしてくるたびにそれとなく話をして親しくなったそうだ。
「決め手のセリフは?」
「結婚してください、ですね」
「え〜、一気にそこまで行っちゃったわけ?」
「そう。覚悟を決めて」
なーるほど。 |
うまく結婚までこぎつけたとする。それでは離婚はどうなのだろう?
結婚するのがそれほどたいへんなのだから、離婚はさぞや、と思ったら、そうでもないらしい。離婚率はさほど高くないが、それでも日本以上に離婚はある。
離婚条件であるが、これが女性にとってなかなか有利なのだ。
結婚すると決めたら、男性は女性の父親なり兄なりの後見人のところに挨拶に行かねばならない。
そのときに話し合われるのが「離婚したときには、どう財産分与してくれるか」である。未来の夫は、結婚する前から離婚したときのお金の心配をしなくてはならない。きちんと契約書を結んで、奥さんにはどれだけ財産を渡すとか、家はあげる、とか、養育費はどれくらい払う、などを書き入れる。だから、というわけでもないだろうが、奥さんから離婚を申し出ることも結構あるとか。
西欧型フェミニズムの点からは、女性が社会的に一人前に扱われていない証拠のように思われるだろうが、考えようによっては、ありがたい話である。日本では離婚の慰謝料を払う男は17%しかいない。それに比べたら、イランの女性たちのほうが自由ではないか。日本では「離婚したい。でも経済的に困るから別れられない」というカップルがゴマンといることを考えると、イランのほうが女性にとっては法律的、社会慣習的にはるかに強力にサポートされているといってもいい。現実はどうなんだかわからないが。
で、離婚の原因であるが、浮気や暴力はもちろんだが、女性側が三行半を突きつける理由として「マザコン」があるそうだ。イランの男性は母親べったり。結婚生活にも何かとママが口を出し、それに女性がいらいらする。あああ、どこの国も嫁姑問題が深刻なんだねえ。
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ところでイラン映画を見ていて、かねがね「モテル男、モテル女」のスタンダードがよくわからなかった。もちろん美男美女ということになっている。だが、なにせ女性はチャードル姿で、顔立ちくらいしか判断のしようがない。
行ってみてわかったのは、女性はちょっとぼちゃっとした太め系がいいということ。眉や目がくっきりしているほうがいい。目に力がないと、どうもモテナイらしい。
男性もがっしり系で、髭が濃いのが古典的美男でモテていたらしいのだが、最近は細くて毛が薄いほうがいいという若い女の子が増えてきて、それに迎合する若い男も増えて、「嘆かわしい」と年輩者に嘆息させているとか。
性格の好みは、いまいちわからなかった。だがイランの人たちは、そろいもそろって陽気で元気いっぱいだから、暗く憂鬱そうなタイプよりも脳天気なほど明るいほうがモテそうだ。映画に登場する人たちは、インテリの暗めが多いのだけれど、あれは憧れなのかな。
一週間ほどいると、なんとはなしに人種の系統もわかってくる。ペルシャ系、アラブ系、インド系、トルコ系、と判断がつく。これは断定的に確かめたわけではないのだが、どうもペルシャ系に美男美女が多いように思う。偏見かもしれないが。
かわいい男の子ウォッチャーの私は、一度、思わず「バスを停めて!」と叫びたくなったほどのきれいな男の子が街角に立っているのをめざとく見た。高校生らしく、教科書とノートを持っている。黒いごわごわとした髪で、眉毛がくっきりしていて、目が大きい。頭の良さと育ちの良さがすぐわかる上品な顔立ちで、少し神経質そう(→ここがポイント)。指が細くて、首がきれい。
そうだ! 写真を撮っておかなくちゃ……と思ったときには、バスは走り出し、男の子はみるみる遠ざかっていった。うーむ、連れて帰りたいくらいだ、とバスの窓にへばりついて歯がみした。まあ、あれくらいかわいい男の子を見られただけでも、イランに行ったかいがあったというものである。ああ、私ってオバサン。
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