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●ワールドカップへの道●
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<第3回>「気分いいスタジアム
 一ヵ月にわたった2002年FIFA World Cup Korea/Japan™が終わりました。ふー。ワールドカップに、というよりはサッカーを見ることに没頭した40日間でした。サッカーばかり見て、考えて、喜んだり、感動したり、腹を立てたりしつづけられて至福のときでした。
  「世界最高のプレー」にふれて、いろいろな意味で私のサッカー観は変わったように思うのですが、書きながらそれを検証してみたいと思います。とはいってもね、別 にサッカーを論じるわけじゃなくて、ただの感想です。
 まずはスタジアムの話から。
マイ・ホームスタジアム
 今回は札幌、宮城(2回)、茨城、埼玉 (2回)、大分、スーウォン、チョンジュ、テジョンと8つのスタジアムで観戦した。どのスタジアムもそれなりにいいところがあって、どこか一つ「ベストスタジアム」を選ぶことはできないのだが、私が個人的に気分よく観戦できたのは埼玉 とスーウォンだった。
 ちょっと話がそれるのだが、スーウォンからチョンジュに向かうバスの中で知り合い、何回か食事をしたりお互いにインタビューしあったりして仲良くなったスコットランド人ジャーナリストのアランくんが名言をはいた。
「そりゃすばらしいスタジアムはいっぱいあるけれどさ、ぼくにとってもっとも気分のいいスタジアムはなんといってもエジンバラの北にあるダンディー(Dundee)だな」
  彼はスコットランド・リーグの1チーム、ダンディーFCの長年のサポーターなのだ。このチームのことを語らせたら、15分はとまらない。しかも会うたびに語る時間が延びて、こないだなんか100年近くにわたるクラブの歴史を30分は語っていた(とほほ)。
  ダンディーのスタジアムは古くてお世辞にもきれいで設備がいいとはいえないそうだけれど「あそこがぼくのホームスタジアムなんだよ。なんてったってあそこで見るサッカーが一番」と自慢する。いいなあ、そういうの。筋金入りのサポーターって感じだな。
 それで私がホームスタジアムと感じるのはどこかというと、やっぱり近所にある東京スタジアムなのだと気づいた。歴史もないし、ここをホームにしているFC東京とヴェルディにたいして思い入れがあるわけではないが、でも晴れた土曜日の午後に、ビールを飲みながらあそこでだらだらと試合を見ていると「サッカーを見るシアワセ」をしみじみ感じてしまう。サッカー専用スタジアムではないからけっして見やすくはないのだけれど、臨場感はあるし、清潔だし、何よりも家からわずか30分で行けるってところがいい。
 そう、つまり私にとって「気分いい」スタジアムとは、設計や設備もさることながら、まるでホームのようなにおいがするところなのだ。
  その意味で、埼玉スタジアムにもアットホームの雰囲気がある。たしかに浦和美園駅から徒歩30分と歩かされるのはたいへんだし、田んぼの真ん中に突如出現したって観はある。だが、熱心なサポーターに支えられたスタジアムっていう点がいい。それにウチから1回乗り換えるだけで行けるところがいい。勾配がきついせいか、高いところにのぼってもピッチとの距離をさほど感じない。これまでに5回通 ったけれど、毎回気分よかった。
  一方、スーウォンは専用スタジアムで、ピッチと観客席が近く、ネット裏のずいぶん高いところから見たのだけれど、選手の表情までわかるほど近くて一体感が抱けたところがよかった。たまたまとったホテルが、スタジアムから歩いていけるところというのもプラスになっていたかもしれない。
スーウォンのスタジアム
チョンジュのスタジアム
豪華スタジアムの未来は殿堂か廃墟か
 ところで、今回W杯のためにあちこちにスタジアムが作られたわけだが、今後どうなるのだろう?
  韓国で見た3つのスタジアムはいずれもサッカー専用で、それはそれは立派だった。だが韓国戦以外は観客はあまり入っていなかったし、交通 の便がいずれもいいとは言いがたかった。とくにイタリアVS韓国戦が行われたテジョンのスタジアムは交通 の便があまりにも悪く、街中からタクシーで30分以上かかった。そう簡単に足を運べるものじゃない。おまけに宿は少なく、観光資源といえば温泉くらいで街は魅力に乏しい。
 知り合いになった韓国の若者、ジョンユンくんに言わせると、Kリーグはあまり人気がないそうである。彼の住むテジョンのチームは弱くて「みんな嫌いで見たくない」とまで言う。それじゃチームの試合であの立派なスタジアムが満員になることは望めないわけだ。
  チョン・モンジュFIFA副会長のおひざもと、ウルサンとプサンのチームの試合は3万人程度の観客を集めるそうだが、「あとの試合は1000人くらい。強い韓国代表チームの試合は見に行くけれど、弱い地元チームには関心がないのが現状だよ」とのこと。
 となると、立派なサッカー専用スタジアムはどうなっちゃうのだろうか? ソギポのスタジアムはW杯後に観客席を半分にする工事をするそうだけれど、それくらいの英断を下さないかぎり、維持管理もできないまま廃墟となる可能性は十分にある。
 日本も同様の悩みを抱えている。Jリーグの試合にどれだけ観客を動員できるか。たとえばヴィッセル神戸が神戸ウィングスタジアムをいっぱいにできる魅力的な試合をできるかどうか。ベガルタ仙台がいつまで市民を熱狂させる試合をできるか。よほどの意識的底上げがないかぎり、ぺんぺん草がはえるスタジアムになる危険性は十分にある。  
  埼玉やカシマのように、地域がこぞってサッカーを応援する態勢が整い、ホームスタジアムへの愛着と誇りが持てるようにならないと、せっかくのスタジアムも宝の持ち腐れ。いや、それ以上に重いお荷物だ。
 まあそんなことは私が目の黒いうちに起こる可能性が低いのだけれど、いつか、ほんといつか、東京スタジアムでW杯が開かれる日が来てくれるといいなあ。そんな遠い将来の夢にむけても、これからも東京スタジアムで気分よくJリーグの試合を観戦しつづけたい。これが私のホームスタジアム、と胸を張って「サッカー先進国」のサポーターたちに自慢してみたい。というマジメな気持ちで、7月からのJリーグ再開を心待ちにしている。
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