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<第1回>「終了ホイッスルが聞こえてから…」
2度も別れたはずなのに、3度目にまた恋に落ちて
 きっかけはなんだったのかよく思い出せない。2000年6月ハッサン2世杯の対フランス戦で見た西澤の豪快なボレーシュートだったか。それともシドニーオリンピック、対スロバキア戦の中田英のダイビング・ヘディングシュートだったか。
 とにかく、レバノンのアジア杯のときには、私はサッカーにまたまたハマってしまった。「またまた」というにはワケがある。古い話だが、メキシコ・オリンピック銅メダルのときにも3年間ハマって、毎月サッカーマガジンを買い、受験だというのにテレビで毎週月曜日深夜サンテレビで放映されていたプレミア・リーグを見て、マンチェスター・ユナテッドを応援していたことがあった。つぎにJリーグ開幕前後からもハマって、日産→横浜マリノスを応援していた。つまり、今回ハマったのは3回目ということになる。
サッカーに明け、サッカーに暮れる
 だから昨年後半はずいぶん忙しかった。毎週土日はテレビか競技場でサッカー観戦をしなくてはならない。「ならない」ってことはないんだけれど、気持ちとしては「これを見逃したら一生後悔する」と切羽詰っているのだ。どんなに仕事が押していても、寝不足でも、義理を欠いても、めぼしい試合はだいたい観た。
サッカーマガジン、サッカーダイジェスト、ワールドサッカー、Numberは欠かさず購読し、毎朝毎晩ネットでめぼしいサッカーサイトを一巡する。文字通り、サッカーに明け、サッカーに暮れる毎日。サッカーファンのサイトの掲示板にときどき書き込みまでしてしまう。もちろんお気に入りの選手にファンメールも送ってしまった。ほとんど、どころか、どっぷりと蹴球中毒状態である。
サッカーファンにはなんのメリットもない
 サッカーが好きになっていいことはなにもない。日常生活や仕事には、弊害こそあれ実  利はなにも生まれない。自分がサッカーをやったこともほとんどなければ(高校のときに体育の授業でキックや戦術をひと通り習い、10試合くらいやったことがあるがそれだけ)、今後サッカーに直接的にかかわりをもつことはないと断言できる。まわりにサッカー少年青年中年がいるわけでもない。家族は私が「7時からテレビ予約する。リーガエスパニューラを観るから」というと、いやーな顔をする。サッカーのことを語り合える友もほとんどいないし、観戦スタンドを見回しても、私のようなオバサンはまず見当たらない。
 たぶん試合中の張り詰めた緊張感が好きなのだと思う。おもしろい試合では、ほんのちょっとのミスが地獄となり、ちょっとしたパスが天国につながる。緻密に計算された戦術の展開が観られるのも、また思いもかけなかったドラマが展開されるところにも興奮する。こういうのって、もしかするとヤク中に似ている?
ガンバの1点、ボカの2点
 たとえば昨年の天皇杯準々決勝ガンバ大阪VSジュビロ磐田戦。主力メンバーのほとんどをケガと出場停止で欠き、試合にはじめて出るような若手ばかりで組んだガンバは、立ち上がりからジュビロに押されっぱなし。試合はずっとジュビロ側で行われているような状態だった。それでもガンバは必死に守りぬいて延長戦となり、延長後半にこぼれ球を拾った若い選手2人が駆け上がって同点ゴールを決めた。
 10人いたら10人とも「まあ、ジュビロでしょう」といっていた試合予想を、弱冠20歳で「これがJリーグデビュー戦です」という若僧がくつがえした。しかもたった一回だけのチャンスをモノにして。得点の瞬間、私はしびれるほどの感動で茫然とした。カタルシス……こういうドラマがあるから、サッカー観戦はやめられない。
トヨタ杯のレアルマドリードVSボカジュニアの試合も同様だった。大方の予想はレアル優勢。それなのに最初の数分で、またたくうちにボカのパレルモが2ゴールをあげて、レアルを突き放した。パレルモは以前の試合で、3回もPKをはずしたというトンでもないストライカーなのである。それにフィーゴ、ロベルト・カルロスという強力MF、FWを抱えるレアルの豪華メンバーを、1点だけに押えきったDF陣もすごかった。
ベストマッチ3試合
 Jリーグ後期第15節柏レイソルVS鹿島アントラーズ。(この試合に勝ったほうが(鹿島は引き分けでも)リーグ優勝という試合。結局0対0のドローだったが、見せ場がいっぱいあった)
 天皇杯準決勝ガンバ大阪VS鹿島アントラーズ。(ガンバが43分という後半終了間際に逆転されて「これで試合が決まった」と思ったら、その3分後にまた同点に追いついた。延長であっさりゴールを決められて結局負けたけれど)
 天皇杯決勝清水エスパルスVS鹿島アントラーズ。(点を取って取られてのシーソーゲーム。鹿島のマリーシアな(=あくどい、汚い)試合運びに腹が立つと同時に唸らされた)
 昨年実際に観戦した中での、私のベストマッチである。なぜか全部アントラーズ戦。好きではないけれど、やっぱりアントラーズは「ここぞ」という勝負がかかったときに、非常におもしろい試合をする。どんな汚い手を使っても、反則ぎりぎりのプレーを駆使しても、マリーシアとののしられようと、アントラーズは必ず勝つべきところに勝つ。それもまたサッカーの醍醐味なのだ。
終了ホイッスルが聞こえても
 私はとくにどこかにチームや選手に肩入れしているわけではない。好きなチームはJ1だとガンバ大阪、ジュビロ磐田、清水エスパルス、横浜マリノス、柏レイソル。好きな選手は新井場(ガンバ)、市川(清水)、服部と福西(磐田)、大野と薩川(柏)、木島(マリノス)とばらばらで統一がとれていない。強いていえば、MFかDFで攻撃にも参加する突破力のある選手が好き。セリエAだとユベントスとフィオレンティーナ。好きな選手はシェフチェンコとマルディーニ(ミラン)、ダビッツ(ユベントス)、ルイ・コスタ(フィオレンティーナ)。これまたデタラメだが、とりあえず破壊力がある選手を贔屓にしている。好きなチームや選手がいっぱいいると、試合観戦はますます楽しくなる。
 固唾を呑んで夢中になれる試合だと、終了ホイッスルが聞こえても数時間、ときには数日間も興奮が覚めない。とくに好きなチームが勝った試合だったりすると、終了ホイッスルが聞こえてから本当の楽しみが始まるといってもいいほど。翌日のスポーツ新聞を買い漁り、ネットでひと通り試合評を眺める楽しみが待っているから。
 まさに極私的流行なのだが、あと数回「サッカー・ホリック」のコラムにおつきあいいただきたい。
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